サカテヨウスケ(ドードー舎)


『クロス探偵物語』

しゃべるパピコン（PC6001mk�U)で『ポートピア連続殺人事件』をクリアしたのは１９８４年３月２２日のこと。あれから１４年。ようやく色々な意味で心から楽しめるアドベンチャーゲーム（以下AVG）にめぐり会えました。ありがとうサターン。

このソフト、発売されることは知ってましたし、気にもなっていたんですがどうにも手が伸びなかったのは、どう考えても広告のせいです。サターンといえばキャラゲー、つーか ギャルゲー、というご時世に、厚いくちびる太い首・主人公黒須剣（♂）のアップ（しか もアオリ）がデデーンじゃあ、いくら「小説１０冊分のボリューム」「テーマ曲はビチカー トファイブ」とか言われても、Ｘ指定ソフト『バーチャ・フォトスタジオ』でパシャパシャとヌード撮影して喜んでるような汚れちまった僕のハートに火なんてつきませんとも。

そうしてその存在すら頭から消えかかっていた発売数週間後のある日、シューティングゲームを買って帰ろうとする僕に、顔馴染みの店員さんがそっと手渡してくれたのが何あろう『クロス』の体験版だったのです。店頭予約者に配られる筈のものがなぜおまけに？そんなレベルで余計な不安を掻き立てられます。帰宅後、たいして期待せずに第１話をプ レイ。・・・３０分後、再びゲーム屋に向かう僕の手にはしっかりと７０００円が握られて いました。（後日、この体験版を押し付けてプレイしてもらった東久留米在住の男性から も同様の報告が寄せられています。）

何故かくも鮮やかにキャッチ・ザ・ハートされてしまったのか。理由は簡単。本当に自分が主人公になって探偵できる初めてのソフトだったから。 ＡＶＧの主人公というと、質問されて答えるのにグチグチとしつこい「俺ギャグ」を繰 り返したり、すぐ他人を小馬鹿にした態度をとったりと、実際目の前にいたらぶん殴ってやりたくなるような、どうにも陰湿で内弁慶な奴らが多くて多くて多過ぎます。この傾向 は特にパソコンからの移植作に顕著なんですが、こいつはパソコンでゲームを作ってる人たちの人間性の現れなんでしょうか？もちろんシナリオライターなどごく一部の人たちがそうなんでしょうが、そんなヤな奴に感情移入しろったってアナタ、無茶です横暴です。

ところが我らが主人公、黒須剣くんはそんな輩じゃなかったんだなぁ。頭の回転はまずまずだけど、すッとぼけたところもあり、真面目だけどちょっぴりエッチ。そうそう、こ んな北条司ライクな奴になりたかったんだよ、っていうか俺じゃんコイツ！

かくしてフツーの探偵見習いが、ごくオーソドックスにストーカーやら館での殺人やら７つの事件を解決していくんですが、現場検証で画面をクリックしたり、解答を一文字ず つ入力したりと、かなり往年のパソゲーを思わせる作りになっているあたり涙モノです。そういや『デゼニランド』で「attach」の一言が分かんなくて３日ほど辞書とにらめっこ したもんだなぁ、なんて話はどうでもいいんだ、ばかもの。さすがに『クロス』にはそん なイヤラしい引っ掛けはほとんど無いんですが、たまぁに「現代の常識」を前提にしてい る謎解きもあってりして、一介の酒飲みオヤジとしてはちょっぴりドキドキさせられたりもしましたが、それも理不尽なものではないので後味は悪くありません。そんなことより むしろ第６話、唐突に３Ｄダンジョンを検索させられるのだけは大カンベン。でもそこだけ、不満はそこだけですよ。内容はごく当たり前の本格推理。このごく当たり前ってのが 今までどこ探しても見付からなかったわけです。シナリオ分岐で被害者や殺害方法が変わる第７話なんてすごいよホントに。個人的には女の子がいっぱい出てくる第３話が好きなんですけどね。

全編を流れるコミカルな雰囲気、いとおしい登場人物たち。制作者が極めて楽しみなが らこのソフトを作った事が良く分かります。それでいてほとんど破綻のないシナリオ。それも本格推理。AVG好きならサターン買ってでもやって下さい、ってのは完全に言い過 ぎましたごめんなさい。本体ごと貸すからやって下さい。なんともおそまつなタイトル画面やシナリオ選択画面、ピチカートの起用やパッケージのショボさ加減とか、そんなぶきっちょなところも全部ひっくるめてホントにこのソフト自体いとおしいんだってば。金に困って一度は手放したものの、どうしても手元に置いときたくて買い直したぐらいなんだから（しかも２回とも新品で）。続編の企画もあるらしいけど、売れ行き悪かったせいか二の足踏んでるようです。おーい、みんな！やっぱお願いだから新品で買ってアンケートで絶賛してくれぇ！そして俺に『クロス探偵物語２』をやらしてくれぇぇぇ！（ポリゴン 化は不可）

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