古殿
竜夫(BB5エキスパート)
1.Imagination/Brian Wilson
(BMGジャパン BVCG-706)
こんなものが出てしまったら、もう98年の一番にするしかないでしょう。本当に待望のブライアン・ウィルソンのアルバムです。
ここ数年で「I Just Wasn't Made For These Times」や「Orange Crate Art」といったアルバムは出ましたが、前者はドキュメンタリー映画のサントラで内容はセルフカバー集、後者はヴァン・ダイク・パークスのアルバムにヴォーカリストとしての参加という形でした。それでもファンとしてはそれなりに嬉しかったものですが、この正真正銘本人の久々のフル・アルバムが出てしまってはどうしようもありません。すべてがぶっ飛んでしまいましょう。
思えば88年のファースト・ソロ・アルバムから実に10年振りの公式セカンド・アルバムです(その間悔しくもボツにされたものあり)。 とにかく涙、涙の新曲です。アルバムが久し振りなら、僕がこんなに興奮してしまったのも久し振り。素晴らしいコーラス・ワークは相変わらずで言うに及ばず、アレンジもそのコーラスを見事に活かした、ブライアン(ビーチ・ボーイズと言ってもいい)ワールドで、これにはもうひれ伏すのみです。いや参った。
新曲の他にはビーチ・ボーイズ時代の2曲がセルフ・カバーされており、名曲がタイトな今のサウンドで蘇っています。特に「キープ・アン・アイ・オン・サマー」はファンの意表をつく、まさかの渋い選曲で驚かされました。
ラストの「ハッピー・デイズ」は展開がやや複雑な大作で、冒頭の不協和音は幻のアルバム「スマイル」を連想させます。彼の頭の中には今でも恐ろしいぐらいの「イマジネーション」が飛び交っているようです。
70年代からはジャンキーで復帰は絶望的とまで思われていたブライアンが、今は皮肉にもウィルソン兄弟でただ一人健在となってしまいました(デニス、カールの冥福をあらためて祈ります)。しかし彼が元気に音楽活動をしてくれるというだけで、ファンにとっては格別の意味を持ちます。98年、ひたすら聴いたアルバムでした。
2.the best of Ute lemper
(ポリグラム POCL-1808)
知る人ぞ知る、ドイツの歌姫ウテ・レンパーの89年から現在までの作品を集めたベスト盤です。と言っても本作で初めて聴ける98年の新録あり、既発でも言語ヴァージョン違いありとあなどれない内容です。
ミュージカル、映画モノ、マレーネ・ディートリッヒとエディット・ピアフ、キャバレーソング、マイケル・ナイマンまでベストならではの幅広い選曲で、しかも散漫さを感じさせずに聴かせてくれます。
「オール・ザット・ジャズ」や「キャバレー」のようなミュージカル曲を歌えば楽しく、ブレヒト=ワイルの有名なスタンダード「マック・ザ・ナイフ」、かつてドアーズやデヴィッド・ボウイのカバーでロックファンにもおなじみの「アラバマ・ソング」などもしっかり押さえられています。また映画「ボイジャー」からの「ケアレス・ラヴ・ブルース」は素晴らしい名唱。本当にいいバラードを聴かせてくれます。アレンジも雰囲気タップリで最高です。そして得意のキャバレー・ソング。ここまで歌える人は現在ではなかなかいません。
本作には前回のキャバレーソング集と同じ独語ではなく、英語バージョンが収録されていて嬉しい限り。マイケル・ナイマン曲に至っては、プロデュースはあのデヴィッド・カニンガム!まさかこんなところでカニンガムの名前を目にするとはね。一体この人の人脈とか、ジャンルってどうなってるんでしょうか?
バックのオーケストレーションも決して大袈裟になり過ぎず、またこの手のものにありがちな感情過多でもなく、基本的に小気味よいアレンジがさすがです。それぞれ曲の持ち味を充分に活かした出来になっています。
とにかく名曲てんこ盛りの、おいしいアルバムです。
3.Atom Shop/Bill Nelson
(ポニーキャニオン PCCY-01284)
あらら、久し振りですねビル・ネルソンさん。
といってもこの人は70年代はBe Bop Deluxeでバンド、80年代は自ら主宰するコクトー・レーベル(この名前からも判るようにこの人はジャン・コクトー信者で、世界有数のコクトーコレクターでもある)でずっと精力的なソロ活動をしていたんですけど。
80年代はやたらアンビエントな音楽やシンセのインストなどがあまりにディープ過ぎ、僕にとってはしばらくのごぶさたでしたが、本作は何とロバート・フリップ御大のレーベルDiscipline
Global Mobileからの発売。う〜ん、ひねくれたこの2人のイギリス人てのも意外といえば意外な取り合わせ。 Be Bop
Deluxeではとてもカッコ良いSFロックを演っていたネルソンさんですが、その後ソロ・プロジェクト的なRed Noiseでは当時最先鋭のテクノ・ポップ、ソロに転向してからは自らの美意識をひたすら展開したような音楽を演っていて、衰えを知りません。
まず昔からギター・プレイは 変幻自在のサウンドを聴かせてくれていましたが、本作でも何だかよく分からないくらい(?)いろんなギターの音が入っています。それもフレーズというより効果音みたいな感じで。何だか音源やら機材も新旧混沌と使っていらっしゃるようで・・・とにかく快作です。
それにしてもアレンジの緻密な組み立てといい、ウネリまくったコード進行や歌唱といい、曲の繋ぎに入ってくるSEといい、単純に一言では言い表せない複雑なすごさがあります。パラノイア的と言おうか、ウィットと言っていいのか、このひねくれようはやはりイギリス的。ヴォーカルのネルソン節は本当に久し振りに聴いた気がします。
もう僕なんか古いロックの人間だから、最近の音楽なんか分からなくなってきてるけども、この世界で30年もやっていて未だに時代に沿った、しかも自分の音楽的アイデンティティが枯渇していないこの人ってやっぱりすごいです。
4.WE GOT RHYTHM
-A Gershwin Songbook /Andre PrevinZ
(ポリグラム POCG-10086)
98年はジョージ・ガーシュイン生誕100周年だったそうです。そのためガーシュイン関連の新譜がたくさんリリースされた1年でもありました。その中でも印象深かったのがアンドレ・プレヴィン(ピアノ)のこのアルバムです。
彼は指揮者としてもピアニストとしてもクラシックの人ってイメージがありますが、本作はまったく違い、とってもジャジーなアレンジで名曲の数々を演奏しています。しかもそんなことは微塵も感じさせないベース(デヴィッド・フィンク)とのデュオで。これでドラムなんか入ってたらすごいカッコ良かったろうなあなどと、勝手な想像でワクワクしてしまいますが、どうやらデュオでの自由度の方を重視したようです。それにしてもドラムレスでこのスイング感はすごい。ピアノが実にパーカッシブ。
「みんな笑った」の死ぬほどカッコ良いイントロダクション、「フォギー・デイ」の次第に盛り上がってくるジャズの王道を行く構成とドライブ感、素晴らしいベース・ソロとピアノのせめぎ合い、アップテンポとバラード曲との対比、「イズント・イット・ア・ピティ」のロマンティックな響き、ベースの4ビートが強烈なラストの「スワンダフル」に至るまで、これでもかとスイング感に打ちのめされます。やっぱ「ストライク・アップ・ザ・バンド」もぜひ入れて欲しかった、とかまたもや勝手なことを考える私であった。
全体的にかしこまったところなどまったく無く、とても楽しそうに(しかもこんな難しいことを)演奏している様子がサウンドから伝わってきて、このグルーブ感には嬉しくなってしまいます。
今までこういう作品はありそうでなかっただけに、価値ある1枚です。
5.CA VA/Slapp Happy
(V2 VVR1001662)
どうもここ数年(いや10年ぐらいか?)ジャンル問わず再編成モノが多いぞ、と思っていたら何とこんな人達まで出てしまいました。
僕が記憶している最期のシングルから15年近く経ってるな。久々に国内盤も発売されました(僕は我慢できずに輸入盤を店頭で見つけた瞬間すぐに買ってしまいました)。
このグループはどうしても70年〜80年代のヘンリー・カウとかのカンタベリー系というか、ファウスト(そういやこのグループもごく最近再編成して来日までしましたなあ)とかのジャーマン・ロック系とか、そのあたりのイメージが強いです。しかしその中にあって当時から曲自体は随分とポップで、それがかえって異色でした。
もちろん決してストレートな表現ではなく、独特のヒネリとかただならぬところもあるのですが、同世代の人達と比べると親しみやすい音楽だったものです。
ダグマー・クラウゼの澄んだ声もまったく衰えていません。 今回は共作で曲も結構書いています。ピーター・ブレグヴァドのソングライティングも冴えています(この人いいソロ出してるのにもっと売れてもいいと思う)。何だかインドっぽいエスニックなサウンドの「Child
Then」はXTCのアンディ・パートリッジとの共作。
そういえば今回は全体を通して、エスニック調なアレンジのものが多いです。一方アンソニー・ムーアは「Coralie」で枯れた味のあるヴォーカルと、ドラマチックな素晴らしいアレンジを聴かせてくれます(近年過去のソロ作が次々CD化されたのは嬉しい限り)。そしてブレグヴァド/ムーアのコンビ復活には、僕なんかクレジットを見ただけで興奮してしまいます。
この陰のあるサウンドはいかにもヨーロッパ的で、好きな人にはたまらない。決して派手ではないけども、これからも本当にがんばって欲しい人達です。
何はともあれ、今になって彼らの新作が聴けたことを素直に喜びたいのであります。
◆今年出会った人の中で、最も刺激的だったのが古殿氏。 全然音楽とは無縁の機会でお会いしたのだけれど、話題に困ってふと「どんな音楽がお好きですか」と振ってみたのが思わぬ展開へ。BB5、シドバレット、ジャックス...次から次へとツボに入りまくり。
いやぁ、たまりませんでした。お会いできたことを心よりうれしく思います。(遁レコ)
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