2001.2..20. up |
フルタツ/サイケピンキーズ ■ミスティ・ミラージュ/カート・ベッチャー (TYO/YDCD0024) ここ10年ばかりサジタリアスやミレニアムなどといった関連作品がCD化され、再評価熱が高まっているカート・ベッチャーのこれは極めつけの未発表音源集。死ぬまで才能に見合った評価が得られなかったホントに気の毒なヒトです。それは本人がタイミングとかマネージメントに恵まれなかったということもあるでしょう。でも埋もれてしまったこれらの音源に触れれば、それは決して懐古趣味なんかじゃないし今さらながらの再評価も納得がいくハズ。 生前唯一の本人名義のアルバムに「ゼアズ・アン・イノセント・フェイス」(98年にCD化)があります。内容は70年代のウエスト・コーストのフォーク的なサウンドでした。どういう経緯であの音になったのかは判らないけど、本作の方が真骨頂という感じがします。 それからこのヒトの有名な仕事って、79年にビーチ・ボーイズの「ライト・アルバム」で「ヒア・カムズ・ザ・ナイト」のディスコアレンジ版をブルース・ジョンストンと共同プロデュースしたことでしょう。 皮肉なことにこの作品自体は別の理由(ビーチ・ボーイズのイメージに合わない)で酷評され、ますます正当な評価を妨げることにもなったと思います。 で、このアルバム。恐ろしいことに、公式盤のサジタリアスやミレニアムよりも完成度やインパクトの強い作品もあります。「タンブリング・タンブルウィーズ」「霧のミラージュ」といった曲は構成・アレンジとも素晴らしく、それらを軽く凌駕します。この緻密でありながらダイナミズムを感じさせるサウンドに驚きは隠せません。なんで発売されなかったの!?と思わず叫んでしまいます。69年当時に驚異の32トラック(せいぜい8トラックが標準の時代に16トラックを2台同期させたらしい、スゲエ!)で録ったという音質も実にクリア。こんなのが埋もれてしまうんだから、当時の音楽界がいかに罪つくりであったかが判ろうというもの。 完成度という点ではないけども「アナザー・タイム」には衝撃を受けました。つまりサジタリアスの「プレゼント・テンス」のオープニングを飾る曲のデモ版が収録されているんですが、これがはるかに良い。サジタリアスは好きだけど、あれを聴いた時にサウンドから受けるヴィジョンがどうしても室内音楽的な息苦しさを伴ってしまうのが前から気になってたんです。本バージョンはシンプルなアコースティック・ギターの弾き語りのせいで、原曲のイマジネーションを丸裸のまま感じることができます。はるかに説得力のある曲だったんですね。 ■ドラゴン危機一発/サウンドトラック (α Enterprises/YDCD0024) 最初に告白しよう。私は生粋のドラゴン人である。その昔ブルース・リーに衝撃を受け、以来彼を永遠のアイドル、カリスマとしてきた人種だ。その影響は他の誰よりも強烈だった。おおよそブルース・リーを理解しない相手とは真の友人にはなれないし、パートナーとしてもいい仕事はできないことと思う。 というわけでこのCD、アナログ時代に今はなき東宝レコードから発売されてたものです。それがどういうわけか香港のレーベルから発売。内容はボーナストラック以外は当時の国内盤のままのようです。装丁も紙ジャケで東宝時代のオビまでが折り込みに印刷されている。解説も抜粋したのか日本語のが入ってたりする。 ブルース・リーと言えばまずワールドワイドなワーナー映画「燃えよドラゴン」のイメージが強いと思います。それ以前に香港のゴールデン・ハーベストで作られたものはスケールも小さく、比べちゃうとう〜ん、という向きもあるでしょう。でも僕はこの「ドラゴン危機一発」が一番気に入ってます。主演デビュー作で、片田舎を舞台にしたすっごくローカルな設定。正直言って映画自体の作りとかストーリーは稚拙で、ホントくだらないって言ってしまえるものです。クライマックスの格闘シーンでさえ、向こうで関係ない車がブーッと通ってたりするマヌケっぷり。東宝さん、「一発」は「一髪」じゃないのかい?(一発の方が雰囲気はよく出てるけど)しかしそんな最悪な状況でもブルース・リーの存在だけは光り輝いている。すべてをブッ飛ばす永遠の輝きに満ちているのだ。これが驚くべきことであると同時に、ファンであり続ける理由であります。 前置きが長くなりました。昔のサントラってこれみたく映画本編をそのまんま抜粋で収録してるのが多かったなあ。僕はやっぱりこの英語版がオリジナルって気がするんです。音声も大半が質の悪いモノラル。テーマ数曲だけがかろうじてステレオ音質を保っています。曲はフレージングとかオケの組み立て方がいかにも70年代初頭のB級映画然としてて、そこがかえって味になっております。「正義の鉄拳/メイン・テーマ」ああぁ、興奮するなあ。 それにしてもここでもやってくれます香港の制作関係者さんたち。ボーナストラックに挿入歌「鋼鉄の男」北京語版が収録されているのですがこれが大笑い。前奏と歌の本編とエンディングがまったくのツギハギ。オマエはブライアン・ウィルソンかっての!(笑)しかしこれがテープを編集しました、なんてレベルじゃなくて誰が聞いても音質、テンポも違う。サウンドコラージュじゃないんだからもう。平気でやってしまえるところがお国柄です。 ■サティ:ピアノ作品集/ルグラン (ワーナー/WPCS-21082) 日本では5〜10年周期でサティのブームがやって来ます。悪いことじゃないけど、そのおかげですっかりオシャレな音楽と認識されてる感があります。逆に言えば時代が変わってもその時々に確実にマッチする音楽性は、永遠の価値を持ったものだと言うことができると思います。 本作ではフレンチ音楽界の巨匠ミシェル・ルグラン(ピアノ)が有名曲の数々を聴かせてくれます。93年に発売されてけっこう話題になったアルバムですが、今回は1000円という低価格での嬉しい再リリース。こりゃ買いです。僕はそれまで同じフランス人演奏家でもパスカル・ロジェとか、割と固めの演奏しか聴いたことがなかったんですが、本作の「官僚的なソナチネ」に初めて触れた時、こんな解釈もあるんだなと感動した憶えがあります。この曲が持つ軽快でユーモラスな側面を見事に引き出しており、他の曲のいずれもその解釈には大いに興味を持つものでした。 全体的にエスプリが効いてると言おうか、聴いてて愉快になってくるような演奏です。 ■ベスト・オブ・トム・ジョーンズ (ポリドール/POCY1001) 昨年はエンゲルベルト・フンパーディンクの新作に驚いたものでしたが、同世代のトム・ジョーンズもすごい。彼は若いミュージシャンとの共演とか未だ現役で精力的に活動していますが、やはり再評価の気運高まりました。ティム・バートン監督の映画「マーズ・アタック」では何と本人役で出演してたり、今年は国内でもCMで曲が使われたり、クラブシーンで話題になったりしてるらしい。そしてこの嬉しいベスト盤の発売となったワケですな。 フンパーディンクがインテリっぽいセクシーさを漂わせてるのとは対照的に、このトム・ジョーンズは同じ系統でもマッチョなイメージがあります。ソウルっぽさと言おうか、あけすけなフィーリングが伝わってくるという点ではより肉体派と言ってもいいかも知れません。何しろもったいつけない。この歌のグルーヴは日本人がその表現を最も苦手とするもので、つい憧れてしまう要素です。 サウンドは軽快なブラスとか、大仰なオーケストラのアレンジがいいです。金髪美人に日焼けした男のイメージが浮かんできそうな先のCM曲「よくあることさ」や、007の主題歌「サンダーボール」など、一時代を築いたそしてこれからも世代を越えて受け継がれていくであろう、魅力ある楽曲が並んでいます。 【総括】 まず今年はCD買ったなあという感触が。去年はこれぞ!というものになかなか巡り逢えなかった気がするのだけど、数多くてけっこう選んでたと思います。だから代表殿には事前に5枚じゃ済まないかも、とお伝えしてありましたが、最終的に迷いながらも絞り込みました。 数が多けりゃいいってもんでもなくて、その中で後々まで付き合って行けるものは少ないのもまた事実。でも面白いのは今の自分に合わなくとも、数年後に思い出して聴いてみるとすごくハマったりする場合かな。まるで今まで開かなかった扉が突然中を見せてくれるような。そういう経験がホントに重要な意味を持ってきたからこそ、ちょっと興味持つと即ゲットになってしまうんです。(2000.12.21)
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