【解説】
「月刊DM」は私が世に送り出したはじめての雑誌である。先輩と二人で執筆、編集、宣伝のほとんどを手掛け、宮武外骨の例を持ち出すまでもないが、「書きたいことを書き、出したい時に出す」を趣旨に、ともすると一人よがりの、とてつもないパワーをばらまいた。
内容は、小説、エッセイ、文芸評論、アニメ評論、幾人か人々で執筆するリレー小説(江戸川乱歩ら戦前戦後の探偵小説作家が行った「合作探偵小説」のパクリ。第8回まで続いた)、占い(辞書占い!!)、川柳等、軟硬両派に支持された。
ほぼ月1回の発行で、第4号では表紙で「文芸誌宣言!」をするに至ったが、この号の発行をもって自然消滅した。
ここに再録するものは私が第3号に蝶舞雪之丞名義で執筆した中森明菜論である。
※参考資料/「月刊DM」内容一覧
《創刊号(93年3月発行)》
・DMNNニュース
・MOA
今月の仲間
今月のいい朝
今月の平井太郎
今月の一徹
・ 幻想とANUS 第一回「子宮内航海」
坂手陽吉・著
・今月の一冊/「痴人の愛」谷崎潤一郎
・DMの父/辞書うらない
今月の先生/ドルセーヨ鷹
《第2号(93年4月発行)》
・リレー小説「ミサオ走る!」
「白い封筒」天野舟虫
「狂気への入口」蝶舞雪之丞
「男とバッヂとクライシと」天野舟虫
「色彩絵巻」蝶舞雪之丞
・日本のこころ
川柳
・編集長の自慢
・幻想とANUS 第二回「無限境の神」
坂手陽吉 改め 天野舟虫 著
・今月のロック・ロック黒岩
・今月のホット・ヒッツ
圭子の夢は夜ひらく/藤 圭子
《第3号(93年5月発行)》
・月光のビブリオテカ/天野舟虫
「冷や汗をかいた話」
「どうしても目玉焼きを食べたか
った話」
「得をした話」
「透明屋の話」
・幻想とANUS 第三回「人間竹輪」
天野舟虫 著
・女神の微笑〜幻想とAKINA〜
蝶舞雪之丞
・MOA
今月の東スポ
アニマルのお言葉
今月の久作
・リレー小説「ミサオ走る!」
「クライシ君からの手紙」霜月師走
「再びホテルへ」天野舟虫
・アニメでチュウ/やうす くえ
「うる星やつら」の巻
・黒春/利根川乱肥
・日本のこころ
《第4号(93年7月発行)》
・君と僕とお月さま/斎藤健作
・たまゆら物語/天野舟虫
・赤い雨/利根川乱肥
・読者の声/多摩市・伊代野さん
・アニメでチュウ/やうす くえ
「メガゾーン23」の巻
・リレー小説「ミサオ走る!」
「トランプの謎」コルド・コン・ラブ
「夜の街の中で」けんさく
・日記THE妄想八王子/蜂尾宇治丸
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《本 文》
現在の私の心の暗部に多大な影響を与えているのは、作家、江戸川乱歩である。彼は10代も終わりに近づいた私の「陰」の部分をいい意味でも悪い意味でもどんどん広げてくれた。その狂気と幻想の世界は、とても美しく、そして切ない。
ではその「陰」の部分を私に芽生えさせてくれたのは一体誰なのか、と尋ねられたとしたら、私は迷わずこう答えるであろう。
―――――中森明菜である、と。
私はどちらかと云えば、彼女の遅れてきたファンであった。時はまさに明菜全盛期、最新シングル「禁句」がヒット・チャートをうなぎ登りの時期であった。テレビの画面に映る彼女は、山口百恵を多分に意識したイメージ戦略の中、他のアイドルたちにみられた「どこにでもいる女の子」路線とは一線を画しており、百恵を知らない我々世代にとって彼女はとても新鮮な存在だった。どこか影があり、媚びた笑顔を作らない、そして自分には手の届かない女性、それが明菜だった。
手の届かない女性、そんな彼女も時々我々にそっと手を差しのべ、微笑むことがあった。それらの行為は私の心をいっそう彼女の方へと引き寄せ、私がつかもうとすると目の前でぱっと消えた。
3rdアルバム「ファンタジー〈幻想曲〉」は大ヒットシングル「セカンド・ラブ」をうけて発表された。まず冒頭「明菜から・・・」では彼女のまさに耳元でささやくかのようなメッセージが収められている。
‥‥‥‥「今、何をしてますか」「勉強してますか」「今好きな人はいますか」等という彼女の声は、初めての女神の下界への到来を思わせた(今にして思うと「全員集合」の加藤茶と変わらんが)。私は彼女の一言一言に耳をそば立て、スピーカーに向かって返事をし、家族のものたちを困惑させたものであった。
また名曲「瑠璃色の夜へ」では「とめどなく夢の中へ私/あなたととけて行きたいの」「さわって私の頬をただ何気なく/震えるまつ毛を閉じたら/それから‥‥‥」と当時小学生であった私の下半身を硬直させた。
’84年、7枚目のシングル「北ウイング」で彼女は「明菜からあなたへ素敵なお年玉プレゼント!」と題し、大懸賞大会を催す。景品は
1.明菜オリジナル・スタジャン〜500名
2.明菜お楽しみ福袋〜1000名
の2点であった。私は2のお楽しみ福袋の中身が気が気でなく、夜も寝つかれぬ日々が続いた。その頃はちょうど私の性への目覚めと重なり、あらぬ妄想を巡らせ、応募ハガキに熱い文章をしたためた。
しかし、そんな私の心中を察してか、今回ばかりは彼女は私に手を差しのべてはくれなかった‥‥‥。
同年、クリスマス。限定アルバム「SILENT LOVE」発表。全編ストーリー仕立てでリスナーの我々はここで明菜と恋に落ちる。
――――――横浜の「サリーズ・ショップ」のダンスパーティー。そこで私は窓際で頬杖をつき海を眺める明菜の姿を見つける。
「踊ろうよ。」声を掛ける私。そして明菜の手を取る。
「やめてよ。」彼女は私の頬を叩く。
そして彼女は店を飛び出す。追いかける私。渦巻く風がシャツをふくらませる。
「好きだよ!」私は知らぬ間に叫んでいた。
声が震えた。足を止める彼女。
―――――――そして2人は恋に落ちた。
数年後、12月20日、2人は寄り添い、きらめく横浜港に目を注いでいた。
「‥‥‥ねぇ、2人でクリスマスできるかしら。」
うつむく私。(私の身体は心臓病に犯されていた!)
12月22日。私は手術をするため(と思われる)ロンドンへと発つ。
「ダメ。今夜は少し早い2人だけのイヴにして‥‥‥‥」
少し笑って だって2人のイヴよ
せめてターミナルまでは見つめていて
赤いドレスに気づいてよ
本当は悲しくて 胸がはりさけそう
だまると涙があふれる
うつむいちゃダメ
ねぇ楽しいイヴにしましょう
ねぇ可愛い手紙が欲しい
(TerminalまでのEVE)
12月25日。明菜はひとり私の写真を見つめる。街に流れるキャロル。粉雪の舞う風音。そして郵便夫の自転車の音。
雪のポストには私からのピンクのカードが。頬を寄せる明菜。
――――――――――Merry X’mas
手の届かない女性、明菜はこうして時々我々のすぐそばに現れた。だがそれは、はかない幻想、白昼夢に過ぎなかった。幼い私にはそれすら理解する事は出来なかった。混乱に身をゆだね、私は悶々とした日々を過ごした。
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