映画「ラブ&マーシー」雑感殴り書き
ブライアン・ウィルソンを描いた映画「ラブ&マーシー」を。
以下、ネタバレありの可能性も。雑感殴り書き。
60年代半ばのライブ活動から離脱して曲作りとスタジオワークに専念し「ペット・サウンズ」~「スマイル」を産み出すブライアンのクリエイティビティの絶頂と、それ故生まれた軋轢と挫折と混乱の時期と、80年代のブライアン隠遁末期とも言える精神科医ユージン・ランディの監視下での生活を送る時期が交互に描かれ、物語は進行して参ります。
ブライアン公認、かつ萩原健太さん監修ということで基本史実に忠実で、キャスティングも絶妙(ビーチ・ボーイズのメンバーはもちろん、ハル・ブレイン、キャロル・ケイに、ヴァン・ダイク、親父のマリー・ウィルソンのふてぶてしさ、最初の妻のマリリンの可愛らしさも良かったなぁ)。
あと、何てったってライブ映像やフォトセッションの様子、レコーディングの模様の、衣装からカメラワーク、画の質感までとにかく緻密な再現にこだわっていて、まるで本当に当時の映像を見せられているような錯覚に陥るほど。とにかくすごかったなぁ。
「スループ・ジョン B」のプロモの再現までしちゃうのには思わず笑ってしまいました。
白眉はレコーディング風景の映像。
「ペット・サウンズ」「スマイル」ともに膨大に残るレコーディングセッション音源を使い、それに合わせて映像が作られていて、まるで、まさか見れるはずのないレコーディング風景をのぞいてしまっているような、ブライアンの思い描くサウンドが構築されていく様を目の前にしているような、そんな気分になってたまらんものがございました。
「ペット・サウンズ」へ向かうブライアンの溢れに溢れ出る創造性と楽曲に対する確信。しかしそれはマイク・ラブから真っ向から反発され、父親からも否定される。
「ペット・サウンズ」のセールス不振、つかの間「グッド・バイブレーション」の成功でマイクとの関係が修復されたかと思えば、ドラッグと「スマイル」セッションの泥沼に落ち込んでいく・・・。
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「ペット・サウンズ」のセールス不振は、作品の質うんぬん以前のキャピトルの意地悪(「ペット・サウンズ」のリリースにぶつけてベスト盤をリリースしたりしたわけです)など色んな事情が背景にはあったわけですが・・・。それにしてもイギリスでのビートルズのポールをはじめとする大評価、好調なセールスをなぜよしとしなかったのかは本当に不思議。のちにイギリスのツアーを大成功させて、「Live in London」なんてアルバムも出しているのにね・・・
バンドも、そしてもちろん父親も、どんなに無理解でも理不尽であっても、ブライアンにとってそれは「家族、兄弟」という意識がとても強いんだよなぁ。家族や兄弟が受け入れなければ、自信を失ってしまったり深く傷ついてしまったりする。
つくづく、ビートルズにとってのジョージ・マーティンのような存在がブライアンに付いていたならばと思うわけであります。
徹底的に悪者として描かれるユージン・ランディが、本当にどこまでブライアンにとって悪だったのかは、私自身結論付けられていないのだけれど(数年間ベッドにほぼ寝たきりだったブライアンを、この映画で描かれるくらいまで社会復帰させたということは事実だと思う。でもブライアンを金づるに悪事を働いていたこともまた事実。いつかは決別すべき人物だったのは間違いないですが・・・)、文字通り愛と慈悲(Love & Mercy)で、マインドコントロール下にあったブライアンと突き放したメリンダさんも美しかった。
そしてエンディング。
2人のブライアンが結びついて「ペット・サウンズ」と「スマイル」の行方、後年の評価が語られ、そしてエンドロールで、まさかのあの映像・・・あれにはどかっと涙、涙、涙でした。
良い作品でありました。