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| 「遁生レコードに寄せる想い」/井上大成(マイナーレコーズ) それは夏休みの暇な午後のことだった。つい最近札幌にもアクセスポイントができ て、通信料が安くなったこともあり、暇なときはインターネットというのが、この夏 のスタイルである。ひととおり馴染みの頁を覗き終えた私は、行き場を失っていた。 「新規開拓」そう思ったが吉日、検索エンジンの音楽コーナーを片っ端から洗ってみ ることにした。 とある音楽検索エンジンで、「遁世レコード」という読めない漢字のインディペン デントレーベルを発見した。それはのちに「Tonsei」と読むことがわかったけれど、 初めは直感的に「たてよ」と呼んでいた。無知な自分が恥ずかしい。いつまでも「た てよ」ではいけないので、飛んでみることにした。 最初の頁。この頁は「日々更新」しているらしい。気合いを感じる。ここは下段の リンクボタンが煩わしいだけで、単なる導入の様だ。スタートボタンを押してみるこ とにした。いかがわしい作りである。ジャバを用いていると思われる文字のスクロー ルやら、文芸評論のようなコンテンツ。一瞬来るところを間違えたと思った。だいた いこういう作りは「文学青年崩れ」の主宰する頁で、押しつけの評論に終始するのが 相場だと感じた。つまりは悪印象を持って望んだのである。 初めて訪れた頁では、まず作者のプロフィールを探す。それは、プロフィールを見 ることによって安心を得るためだ。しかし、どこにも見あたらない。なかなか挑戦的 である。「内容から察すれ」ということか。 概観をひととおり眺めてから、リアルオーディオファイルを聴いてみることにした 。目的の大部分はそこにある。ホーム頁の容量制限のためか、フルバージョンでは入 っていないようだ。しかし、ストリーム再生ができるようなので安心した。上から順 に再生してみる。むむむ、「ここは文学青年崩れの頁ではないな。」一瞬で察知した 。並んだ曲には思想がある。それもかなり太い思想が。いままで訪れた多くの音楽頁 で聴かれる音楽は、どれも「薄っぺらいどこかで聴いたことのある音楽」だらけで、 失望が先行していた。しかし、ここはどうだ。詩があり、歌があり、叫びがある。し てやられた。最初の悪印象はブッ飛んだ。「もっと探るしかない。」すかさずブック マークに登録した。 音楽は全て聴いた。しかし、あれっぽっちでは、わからないことが多すぎる。わか らないときは他の頁も見てみるのがよい。ふと新コーナーの「対談」に目がいった。 「対談」は、人となりが現れるものである。読み進める。面白すぎる。実在の人物な のかどうかわからないが、代表と秘書の対談としては、あまりにも白熱している。そ して話の進め方が、自分とよく似ている。あなどれない。爆笑の後に、アンケートに 答えてみることにした。とにかく「代表と交信しなければいけない」、何かが自分に 行動を起こさせた。 その日は、そこで中断した。第一段階としてアンケートに対するレスポンスがある かどうかを確認しなければ進まない。返事もないようであれば、そこの頁は不可であ る。すなわち私の直感は否定されたことになる。答えはすかさず出た。幸い、代表が 夏休み中だったためか、反応が早かった。ありきたりの文章だったが、心意気が伝わ ってきた。そして何より安心した。再び私は遁世の世界へ戻った。 今度は、文字で埋め尽くされた頁を覗くことにした。どんな内容なのか、期待が高 まる。「遁世生活」ここに主張が現れているに違いない。ページを開く とそこには、遁世の想いが書き殴られていた。冷静に読むために、ダウンロードして から時間を気にせず読むことにした。 泣けてきた。人は何故歌うのか、どうして音楽で想いを伝えようとするのか。日常 の自分と、ステージ上の自分の分離。ブラウザ上に表示された文章にも関わらず、直 筆文のごとく鋭く心に刺さった。 それからというもの、私は遁世の虜になった。到達できる頁は全て閲覧した。こち らの想いを感じとっていただけたのか、代表との秘密交信も継続中である。遁世レコ ードサンプラーなるテープも送っていただけた。ほとんど一日中繰り返し部屋の中に 響いている。 まだまだわからないことが多すぎる。しかし、わかったことが一つだけある。それ はインターネットなどという、偽インタラクティブなマスメディアに於いても、あた かも目の前で会っているような親交を深めることが可能であるという事である。これ からも遁世との交信が続くことを願ってやまない。 1997年8月29日0時45分
--- Daisei Inoue (Minor Records Japan)diesay@pop01.odn.ne.jp http://www1.odn.ne.jp/~caa03310 |
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