会津若松の馬肉生食文化は本当に力道山によって生まれたのか?
馬刺しが好きです。
私の生まれた会津若松では、親戚一同が集まったり、特別な会の食卓には、必ずと言ってよいほど桜肉…馬刺しがあったように思います。
まさに郷土料理のひとつで、これを醤油に辛子味噌を合わせたものにつけて食べるのです。
会津では、サシ(脂身)が入ってないロースやもも肉の赤身を食することが多いように思います。
大人になってからは、熊本とご縁ができて、他の部位の馬肉を味わう機会にも恵まれました。赤みにサシが入っているのはとても新鮮でしたし、タテガミ(首部分の皮下脂肪)を赤身と挟んで食べる美味しさ。脂の旨味。
そしてニンニクや生姜、タマネギを薬味に、甘味のある醤油につけるのが実に合うのです。
また、都内では台東区入谷の『三富』に桜鍋を食べに連れて行っていただいたことがありました。馬肉に熱を通して食するのは初めてで「こんな食べ方もあるのか!」と感激したことを覚えています。
嗚呼、馬肉食文化万歳。
さて。
2023年12月末のお話。
会津若松に帰省し、馬肉店がたくさん軒を連ねる七日町辺りを車で通過。
「年末だし、つまみに馬刺しが食べたいな。買って帰ろう。」
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と父親に言うと、なんとも不思議な話を言い出します。
「会津に馬刺しを広めたのは力道山なんだよ。…あ、力道山なんて知らないか。」
へ?!
なにそれ? そんな話初めて聞いたぞ。
すぐさまネットで検索すると、確かに複数のページがヒットします。
中でも信頼がおけそうな地元紙「福島民友」のサイトの記事『【食物語・会津の馬肉(下)】力道山が与えた『衝撃』 生食と辛子みそ』によると、今も七日町にある馬肉販売店「肉の庄治郎」に1955年9月1日に若松での興行を終えた力道山と弟子の御一行が、来店。
「『おやじさん、そこにつるされている馬肉を生でくれ』(中略)力道山は一緒に来た弟子たちと、持参した辛子みそを付けて馬肉を生で食べ始めた。」
肉屋の店頭で、大男たちが生肉を食べ始めるなんてことが本当にあったのでしょうか?
会津にはそれまで馬肉を生食をする習慣はなく、今に定着したのは、この力道山のエピソードがきっかけであったと言います。
じゃあ、そりゃすぐ向かうでしょう。「肉の庄治郎」へ。
七日町の少し大通りから外れたところにある「肉の庄治郎」は初めての訪問。
県外の方にも伝わっているのかなかなかの盛況ぶり。
店内には力道山の大きな写真が飾られていました。
上ロースとモモと、これまで食べだことのないモツを購入して帰宅。
結構な金額でした。
「あ、辛子味噌は別売りなの?!」
と後で慌てましたが、いやいや、きちんと1パックにひと袋ずつ入っていて安心。
安定のロースとモモのやわらかさが絶品。
これでもかと辛子味噌を絡めて旨みを増してみます。
ビールとともに食せば箸が止まりません。
初めてのモツはひと口目はややクセを感じましたが、決して嫌いではないお味。
改めて馬肉最高。
ここで気になるのが、力道山が持ち込んだという辛子味噌の存在。
熊本で何度か馬肉を食したことがあるけれど、甘めの醤油に生姜やタマネギなどの薬味を絡めてという食べ方だったように思います。
「肉の庄治郎」で購入したお肉とともに入っていたチラシの文章を転載します。
昭和30年頃には既にテレビでプロレス中継が始まり、当時はカ道山が視聴率ナンバーワンを誇る国民的ヒーローになってきた頃です。外国人レスラーを得意の空手チョップでバッタバッタとなぎ倒す痛快さで戦後の日本人を大いに勇気づけてくれました。
その力道山のプロレス興行が昭和30年9月1日に会津若松の鶴ヶ城(西出丸)であった時のお話です。
興行終了後、カ道山が大勢の弟子を引き連れ当時まだ砂利道だった私の店に裸足で歩いてきたそうです。店に入るなり「馬肉を生でくれ」と言って、その場で切った肉を持参のタレにつけて食べ始めました。当時は馬肉を生で食べる習慣がありませんでしたが、それをきっかけに会津全体に広がり、当店が会津馬刺しの発祥の店になりました。
その力道山の辛し味噌ダレを再現したのが、当店自慢の辛し味噌ダレです。
生肉を辛子味噌で食べる習慣とはどこから導かれたものなのだろうか?
力道山の故郷である韓国や朝鮮料理の作法なのでしょうか?
でもさ。
力道山が肉屋に行って『そこにつるされている馬肉を生でくれ』と持参した辛子味噌を付けて食べ始めたのが、会津だけだったというのは不思議に思います。
辛子味噌を持参してるんでしょ?
馬肉のためだけに辛子味噌を持参したわけはないように思います。
それにしてもこの辛子味噌って一体なんなんだろう。気になって仕方がない。
で。
そもそも、全国の巡業をしていれば、他の馬肉文化のある地でも同じようなことがあって然るべきではないでしょうか。
力道山による会津馬肉生食発祥説を検証します。
そこには馬肉食、生肉食文化の歴史と密接に絡み合う背景と、力道山の秀でたプロモーションセンスの面白さがありました。