たてものハイ:梵寿綱の建築物を巡る その13
梵寿綱建築をめぐる梵散歩。
今回は江東区亀戸の「カーサ亀戸」へ。
築年月は1974年3月とあるので、梵寿綱を名乗る直前、田中俊郎時代の作品となるのでしょう。(参照サイト:SUUMO他、各種不動産サイト)
壁面の花の曼荼羅のようなタイルアートが美しいのは月島の「カーサ相生」と通じるものがあります。
お。
ふむふむ、なるほど。
よくよく比べてみると、2種類あるタイルのひとつは「カーサ相生」とほぼ同一で、もうひとつはデザインは共通の色違いのよう・・・あ、そうか、赤と紫の使い方が逆なんだな。
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「カーサ相生」の築年月が1973年8月とあるので、今回の「カーサ亀戸」とは兄弟関係で弟に当たると言えるのでしょう。(参照サイト:LIFULL HOME’S 他、各種不動産サイト)
本件に関しまして、梵寿綱先生ご本人よりFacebookでコメントをいただきました。
ビバカーサシリーズは、相生と亀戸の二棟で終了しました。
このシリーズは住宅公団がゼネコンに向けた、HPC(H型綱とコンクリートプレファブとの混交方式)構造案応募のために、N組の社長から依頼され開発した方式で、5社案の一つとして採用されましたが、住宅公団が実施を中止したために宙に浮いてしまいました。そこで僕が、木造賃貸アパートの居住者が所有できる価格のワンルームマンションとしてN組に提案し、当時マンション用地として不適切とされていた準工業地域の廃業用地を安価に入手し、27㎡のワンルームを一住戸270万円で分譲できるように計画しましたが、余りにも安過ぎると350万円で分譲しました。
その結果カーサ相生では1日で280戸が完売し、カーサ亀戸では1日で480戸が完売し、その後準工業地域でのワンルームマンションブームが起きました。僕もカーサ相生販売時に2戸をローンの頭金70万円で購入し、完成時には市場価格が1400万円となりました。
(注)社名は修正しました。
居住空間としての機能性を忘れず、またクライアントの予算などという制約の中、芸術性を発揮する梵先生の姿勢にとても惹かれます。
デザインは、制約があるからこそ輝くという面もあると思ってます。
ビジネスの制約の中で行うデザインの苦しさと面白さ。
天才が大衆の理解を超えて暴走する表現も好きですが、制約の中で機能性も維持しつつ、それが大衆に受け入れられる表現も面白いのです。
そして完成当時の居住者希望の殺到と、価値の高騰!
庶民(?・・・いや、そこそこお金持ちでしょう)の心をつかみ、ジャパニーズドリームのように、価値を高める梵建築。
私は、30年くらい生まれるのが遅かったようです。
梵建築には、制約の中でも隠しきれない個性を発揮する部分と、大衆の理解を超えて暴走する両面があるように感じます。
その辺りが、私には麻薬のような魅力があるのです。
大通りの京葉道路に面した2棟がシンメトリーにそびえ立つ姿も美しいのですが、横の小道に入り、複数棟が重なりあって、同じ模様が互い違いにちらりと見える様も楽しいのです。
この梵寿綱の曼荼羅タイルカーサ兄弟シリーズ、派手さは控えめですが、とても好きです。
(→「たてものハイ:梵寿綱の建築物を巡る その14」に続きます)