続・ビートルズ来日公演:ドリフターズ出演 新発掘写真の考察
先日から追いかけている、日刊スポーツが発表した1966年6月30日、ビートルズ来日公演でのドリフターズ前座出演写真の謎。
今回の写真にあるような1本のマイクにメンバーが全員向かうシーンは、映像や音源が残されているドリフターズの姿には、見つかりません。
(6月30日夜公演)
これは別日の写真ではないか?
リハーサル時の写真ではないか?
様々な憶測が飛び交いましたが、前回の考察では、この写真が1966年6月30日の本番出演シーンであることは間違いないという結論になりました。
つまり、ドリフターズには「のっぽのサリー」以外の別の出演場面があったのであろう・・・・ということになります。
では、6月30日夜公演の前座はどのような構成だったのか?
できる限りの全体像をつかんでみたいと思います。
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今回資料にした音源は、「IN JAPAN 1966 50TH ANNIVERSARY EXTRA EDITION」(SGTAX JPCD1/2DVD-1/2)です。
さて。
開演の場内アナウンスから前座の出演者の流れは、下記の通りです。
開演場内アナウンス
司会:E・H・エリック
ブルーコメッツ&ブルージーンズ、内田裕也、尾藤イサオ「ウェルカム・ビートルズ」
ザ・ドリフターズ「のっぽのサリー」
尾藤イサオ「ダイナマイト」
内田裕也&ブルージーンズ「朝日のない街」
望月浩「恋にしびれて」
ブルーコメッツ&ブルージーンズ「キャラバン」
ここまでの長さは14分11秒。約15分です。
次に、もうひとつ資料を紹介します。
雑誌「POPS」(音楽之友社)1966年8月号「ビートルズ来日記念特集号」に「世紀の35分! ビートルズ日本初公演完全実況中継」という記事があります。
これがなかなかに詳細で生々しい記事で、6月30日夜公演の模様を実況中継する、という趣向のものです。
「この放送席は、1階の西スタンド。ビートルズを、ちょうど、斜め左から、見下ろす位置に設けられています。」
とあります。
実況担当は秋元弘一、ゲストが志村武中(作家)と大入八郎(音楽評論家)という方。
記事は開演前から演奏終了まで、細かく現在時刻を伝えながら、ビートルズの演奏や振る舞い、演奏曲、会場の様子を実況していきます。
大入「ロックン・ロール・ミュージック」!
大入さんの声。マイクに入りましたでしょうか。
ザ・ビートルズ。日本最初の演奏曲は「ロックン・ロール・ミュージック」です。大入 ソロをとっているのはジョン。レノン。
「ロックン・ロール・ミュージック」。ジョン・レノンがマイクに向かっています。
しかしその声は、まったく聴えません。場内のこのすさまじい歓声が、もちろんお耳に到達していると思います。
ザ・ビートルズ。曲は2曲目に変りました。2曲目は「シーズ・ア・ウーマン」のようです。
ライブ中にこんなプロレスみたいな実況をホントに行っていたとしたら、周りのお客さんはさぞ迷惑だったことでしょう。
では本題です。
開演から前座出演の模様を見ていきましょう。
ただいま、場内いっぱいに、ベルが鳴りわたりました。手もとの時計は、6時35分。予定より5分遅れていよいよコンサートの開始です。場内にわき起こる歓声、そしてきょう声。ステージ後方から、まずジャッキー・吉川とブルー・コメッツそしてブルー・ジーンズの面々が飛び出してきました。ステージ向って右側に、ブルー・コメッツ。左側にブルー・ジーンズが陣どります。
すでに、大変な歓声・・・今、司会のE・Hエリックが出まして、開会のあいさつをしておりますが、何をいっているのかよく聞きとれません。とにかく、コンサートが始まったことだけは、事実のようです。大入 また2人でてきましたね。内田裕也と、もう一人は・・・尾藤のようだな。尾藤イサオですね。
大入さんの言葉どおり、今夜の賛助出演者、内田裕也と尾藤イサオが、今ステージに上がりました。右側が尾藤、左側が内田裕也です。ブルー・コメッツ、ブルー・ジーンズ。両バンドの合同伴奏で、まず二人がうたいます。
・・・大入さん。この曲、ちょっと聞きなれない曲ですね。
“ウェルカム・ビートルズ”といっているようですが・・・。大入 そう、私も、こんな曲を聴くのは初めてですが、何でもビートルズの賛歌を作ったといってましたから、今日のために用意した新しい曲でしょう。
「ウェルカム・ビートルズ」というのが、タイトルだったと思います。
冒頭のE・Hエリックのあいさつから「ウェルカム・ビートルズ」の流れは、録音に残っている進行と合致します。
記事は、ここでステージの実況をやめ、速報としてビートルズが武道館入りしたことを詳細に伝えます。ビートルズの会場到着は6時41分とあります。
そして、再びステージの実況に戻ります。
さて、今、南スタンドの時計は6時53分を知らせております。ステージに上がっておりますのは、司会のE・Hエリックさん。ザ・ドリフターズの面々を紹介しているところです。笑いのドリフターズが、会場の緊張をリラックスさせようというところです。
さきほど、FMカーからの呼び出しが入りましたのが、6時41分。
約12分ばかり、ステージの様子をお知らせできなかったわけですが、その間、内田裕也、尾藤イサオ、さらには望月浩らが次々と歌を披露今は、ドリフターズの5人に代わってブルー・ジーンズが「津軽じょんがら節」を演奏しているところです。
つ、ついに重要な記録にぶつかることが出来ました。
ここに
ドリフターズの演奏→ブルー・ジーンズの「津軽じょんがら節」
という流れが記録されています。
もう少し記事を追って行きましょう。
ステージは進んでいきます。今、7時5分。開演からちょうど30分たったところでE・Hエリックが、ビートルズからのメッセージを読み上げています。
(中略)志村 しかし、このメッセージは、ビートルズからのメッセージとことわってあるけれども。主催者側の演出くさいですね。まったく、一方的な、主催者の作文ですよ。
志村さんのおっしゃったとおりだとすれば、ビートルズのメッセージ、すなわち主催者の作文が終り、ステージは、ブルー・ジーンズとブルー・コメッツの合同演奏に代ります。
曲は「ホワッド・アイ・セイ」。再び、場内いっぱいに拍手がわき起こっています。7時を約10分ばかりまわったとこで、客席は、また騒然としてきたようです。
「ホワッド・アイ・セイ」から、曲は再び「ウェルカム・ビートルズ」です。
黄色いかけ声が、あちこちからかけられています。
ビートルズ公演、第1部の終幕です。
「ウェルカム・ビートルズ」をうたい終って、ジャッキー・吉川とブルー・コメッツ、ブルー・ジーンズ、内田裕也、尾藤イサオの面々がステージから姿を消しました。
時刻は7時15分。休けい時間は15分と、今場内アナウンスが告げました。
以上が、前座の記録です。
時系列を整理してみましょう。
【6時35分】
(ジャッキー・吉川とブルー・コメッツそしてブルー・ジーンズがステージにスタンバイ)
開演場内アナウンス
司会:E・H・エリック
ブルーコメッツ&ブルージーンズ、内田裕也、尾藤イサオ「ウェルカム・ビートルズ」
ザ・ドリフターズ「のっぽのサリー」
尾藤イサオ「ダイナマイト」
内田裕也&ブルージーンズ「朝日のない街」
望月浩「恋にしびれて」
ブルーコメッツ&ブルージーンズ「キャラバン」
※ここまで日本テレビが撮影・録音
【6時53分】
E・Hエリックがドリフターズを紹介 → ドリフターズおそらく演奏
ブルー・ジーンズ「津軽じょんがら節」
【7時5分】
E・Hエリックがビートルズのメッセージを伝える
【7時10分頃】
ブルー・ジーンズとブルー・コメッツ「ホワッド・アイ・セイ」
ブルーコメッツ&ブルージーンズ、内田裕也、尾藤イサオ「ウェルカム・ビートルズ」
【7時15分】
前座終演 休憩
桜井吾郎の登場や、ブルー・コメッツの演奏、内田裕也の再登場など、録音や記録が残っていないシーンもあるようですが、ここでは前座の大まかな流れをつかむにとどめておきます。
はい。
結論として、録音に残っていないところでドリフターズは再びステージに登場しているのです。
そして、前回の検証で推察したように、その演奏曲は、1本のマイクにメンバーが向かうフォーメーションのある「涙くん愛しちゃったのよ」であったと察せられます。
これで、今回日刊スポーツが発表した写真の謎は、ほぼ解明することが出来たのではないでしょうか。
【追記】2020.9.23.
「介護ポストセブン」に2020年9月20日にアップされた高木ブーへのインタビューで、なかなかに詳細な証言をしています。
記事:「じつは…」高木ブーが今だから明かすビートルズ日本公演前座出演の裏話
ついに裏付けられたのが、「愛しちゃったのよ」の演奏に関して。
やはりあの日刊スポーツ掲載の写真のフォーメーションはこの曲であったのか!
しかし、高木の発言は・・・。
「当日のリハーサルでは『愛しちゃったのよ』を5人がコーラスで歌うネタもやったんだけど、長いからってカットになって、結局『Long Tall sally』の一部を短めにやったんだよね。」
と、本番では「のっぽのサリー」しか演奏をしていないと取れる内容。
また、前座第2部での演奏が謎に・・・。
そして続いて発掘は、1982年のNHKでのいかりや長介による発言。
動画をご覧ください。
ここでもドリフはEHエリックの紹介の後登場したとしています。
演奏内容は「のっぽのサリー」のことで間違い無いでしょう。
ドリフの登場したとされる1ステージ2回の記憶がごちゃ混ぜになっているのでしょうか。
この時点でビートルズ来日からまだ16年しか経っていません。
記憶はそんなに儚くも曖昧なものなのでしょうか。
それとも、私たちが根本的に見逃している事実があるのでしょうか?
どうも、尻尾が掴みきれないのです。