ビートルズ来日公演:ドリフターズ出演 新発掘写真の考察
日刊スポーツが2020年3月30日付でウェブサイトにアップしたこの写真。
キャプションには
「来日したザ・ビートルズの武道館公演の前座で熱唱するザ・ドリフターズ(1966年撮影)」
とあります。
ドリフターズがビートルズ来日公演の前座出演をしたのは、
・1966年6月30日夜公演
・1966年7月1日昼公演
・1966年7月1日夜公演
の全3回です。
その内、最初の2公演はテレビ撮影され、「のっぽのサリー」を演奏するカラー映像が残されています。
(6月30日夜公演)
(7月1日昼公演)
しかしどうも不思議なのです。
何度動画を見返しても、今回の写真のようにメンバーが1本のマイクの前に集まって歌っているシーンが見つからないのです
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つまり、これは映像が残っていない7月1日夜公演の写真ということなのでしょうか。
それとも、そもそもこれは本当にビートルズの前座を務めた際の写真なのか? という疑問も抱いてしまします。
そんな中、Twitterでこのような書き込みを見つけました。
最近、日刊スポーツが公開したこの写真…「ビートルズ来日公演でのドリフターズ」おそらく取材カメラが入った初日(6月30日)公演のものですが、映像として残されているのとは別シーンです。前座ステージの第二部からの写真でしょうね。
「映像として残されているのとは別シーン」??
「前座ステージの第二部からの写真」??
あの前座ステージには、撮影されていないところで「のっぽのサリー」以外のドリフターズの演奏があったということでしょうか。
思わず投稿者の@magical_peterさんに質問を投げかけてみました。
「前座ステージの第二部」とは具体的に何のことでしょうか。ドリフターズは映像が残されている「のっぽのサリー」以外にも演奏をしたということなのでしょうか。「のっぽのサリー」演奏時にメンバーがこのようにマイクの前に集まるシーンはないだけにとても気になっています
そして、間もなく回答をいただくことが出来ました。
前座ステージにはテレビ収録のために通し(編集無し)で行われた10分強の「第一部」と、続いて収録を止めて行われた30分強の「第二部」とがありました。いかりや長介さんが生前にプレスリーの「ブルー・スエード・シューズ」を演ったと仰ってましたから、それが第二部の出し物だったかと思われます。
収録を止めて行われた30分強の「第二部」があり、そこでプレスリーの「ブルー・スエード・シューズ」を演ったといかりや長介が発言していた?!
果たして本当にそんな事実があったのでしょうか。
初耳であります。
では、改めて今回発表された日刊スポーツの写真を細かく見ていきます。
ドリフターズの演奏映像と比較して見ると、背景にライオンのロゴが確認できます。そして、マイクシールドがスタンドに固定されていないことから「マイクぐらぐら事件」でおなじみ1966年6月30日夜公演であると断定できます。
(なぜ断定できるかは、「ビートルズ来日学」(宮永正隆 著・DU BOOKS)P.204~210、そしてこれを引きながら検証した「ビートルズ来日公演:ドリフターズ出演場面による前座映像の日付の特定」を参照してください。)
続いて「ビートルズ来日学」(宮永正隆 著・DU BOOKS)に気になる記述を発見しました。
重要なのは、現在流通している音源は、当日武道館で行われた完全版ではなく「放送用エディット版」だという点だ。前述の『POPS』(注・雑誌。1966年8月号)の6月30日の詳細なルポによると、前座開演時刻は6時35分、前座終了が7時15分。つまり40分もやっている。「ウェルカム・ビートルズ」は前座の最初と最後に2度歌われたとさえ記されている。ところが『Tokyo Highway 66』といった決定版とされるブートレグ音源でさえ、前座はわずか13分前後、「ウェルカム・ビートルズ」も1回だけだ。要はカットされた部分は結構ありそうなのだ。(P232)
前座の演奏がカットされている、もしくは前座の全ては撮影されていないというのは理解できるけれど、本当にカットされている(もしくは撮影されていない)シーンで、ドリフの再登場があったのでしょうか。
ドリフターズのリーダー、いかりや長介は自伝的著書「だめだこりゃ」(新潮社)で、
何しろ相手は天下のビートルズである。満員の観客は早く本物のビートルズを見たくて、今か今かとうずうずしている。そんなところへ笑わせようと出ていっても、ブーイングの嵐が関の山だ。もったとしても1、2分だろう。さっと出て、一発かまして、なるべく早く引き上げるに限る。「みなさん、こんにちはぁ」とか「ドリフターズです」とかも言わず、ネタだけをやろうと決めた。しゃべりのネタは駄目だろう、やはり1曲やるしかないが、フルコーラスではなく、削りに削ってネタの部分だけをやることにしよう。(P79)
とし、「のっぽのサリー」のみを勢いよく演奏し、すぐにステージを後にしたことを語っています。
やはり、どうしてもドリフターズの2回目の登場があったとは信じがたいように思われます。
では、あのメンバーがマイクの前に集まるシーンを捉えた写真はなんなのか?!
それともいかりやの記憶違いなのでしょうか。
堂々めぐりに陥ってしましました。
また、先のTwitterの投稿者の@magical_peterさんからは、前座ステージ第2部のドリフターズ出演の根拠として、「ビートルズを観た!」(音楽出版社)をご紹介いただきました。
この中に、武道館公演の撮影時日本テレビの照明係をしていた中川満氏による証言と、テレビ放送用の台本が全ページ掲載されています。大変貴重な資料です。
正直第一印象は、
・テレビ撮影を行うする前座第1部
・テレビ撮影をしない前座第2部
・ビートルズの演奏
という大まかな構成以外は、内容がほとんど何もわかっていない、出たとこ勝負の撮影台本というものでした。
ドリフターズが「のっぽのサリー」を演奏した部分の台本は、下記のように記されています。
☆(ブルーコメッツとブルージーンズの)演奏終了と同時にビートルズのかつらをつけたドリフターズ、エレキギターをかかえてとび出して来る
(M)(ドラム)四小節程度
ドリフ ヤッホーッ
☆ドリフターズ エレキを弾き始めるが音が出ない
(M)(ドラム)〜END
いかり谷 おい 音出ないね
加藤 ホント やっぱりエレキの元をさし込んでないと駄目なもんだね
いかり谷 一同整列
☆ドリフターズ整列
いかり谷 礼!
一同 失礼しました
☆一同かつらを帽子風にぬいで敬礼
☆ドリフターズ駆け戻る
(P60)
ビートルズの演奏曲は何ひとつわかっていない、前座の演目も決まっていない・・・そのような台本ではありますが、しかし、前座の第1部の出演者や大まかな流れは、残されている映像と大枠で一致しているように感じます。
テレビ撮影が止められたのち、台本では司会のE・H・エリックがステージに登場し、ドリフターズを紹介するとされています。ドリフターズ、2回目の登場です。
☆エリック登場
☆ブルージーンズ退場
エリック どうもありがとうございました。どうです、日本のバンドも大したもんですね。ではここでもう一つバンドをご紹介しましょう。ビートルズと並んで世界的なエレキグループ・・・・。とは行かない、笑いのドリフターズ!!
(P62)
すでに一度登場をしているドリフターズを新たに紹介するような文言に少し違和感を覚えますが、ビートルズ来日公演の前座ステージで、ドリフターズが2回出演したという可能性は「ある」ものと感じました。
しかし、それにしてもこの「ビートルズを観た!」(音楽出版社)は第2部のドリフ出演シーンの複写を抜け落としてしまうという編集・制作の凡ミスが痛い!
(P62:台本P20/21を掲載すべきところに再びP4/5が掲載されている。同じミスを隣ページのP24/25でも行っています )
さて。
少し視点を変えてみます。
「ビートルズ来日学」の宮永正隆さんが、YouTubeでドリフターズの前座について語っている動画の説明欄に「この写真は6月30日のリハーサルの様子ではないか」という推察を書いていて、「ほー。その見方があったか!」と膝をたたきました。
1966年6月30日の初回公演が行われる午前中に、前座出演者のリハーサルが行われたことは、前述のビートルズを観た!」(音楽出版社)に日本テレビの照明係をしていた中川満氏から語られています。
前座出演者のリハーサルは行いましたが、ビートルズのリハーサルは全くなく、台本を使って形だけの準備をしました。本当に一発勝負ですね。(P47)
初日の午前中は前座のリハーサルを行い、それが終わった後はビートルズが飛び込んでくるのを待つという、そんな状況でした。(P47)
なるほど!
この写真はリハーサルの模様であったか。
やはりドリフターズの出演は「のっぽのサリー」1曲だったのだ!
・・・しかし、今回の発掘画像を処理すると・・・・。
客席に人がいることが確認出来ます。
「この写真は6月30日のリハーサル説」は、すぐにもろくも崩れ去りました。
やはり「ドリフターズは1ステージ2回出演していた説」が濃厚と言えるでしょう。
少なくとも6月30日は。
思わぬ収穫もありました。
宮永正隆さんは、今回の発掘写真で演奏している曲が、和田弘とマヒナスターズの「涙くんさよなら」と「愛しちゃったのよ」を混ぜ合わせた「涙くん愛しちゃったのよ」ではないか、という説を唱えています。
ドリフターズの演奏シーンを観てみましょう。
このフォーメーションはまさしく!と感じます。
いかがでしょうか。
・ドリフターズは1966年のビートルズ来日公演の前座ステージで2回の登場シーンがあった。
・少なくとも初回6月30日は「のっぽのサリー」と「涙くん愛しちゃったのよ」を演奏した可能性が高い。
確証を得るため引き続き調査を行って参りたいと思います。
PS.あと回収出来ていないのが「『ブルー・スエード・シューズ』を演奏した」といういかりや長介の発言。
80年代後半に山城新伍さん司会の『新伍のお待ちどおさま』という昼の帯番組にいかりや長介さんがゲスト出演された際、「ブルー・スエード・シューズ」を演奏したと語られていました。但し、いかりやさんの記憶違いというのもあり得ます。
とのこと。そして後日「新伍のお待ちどおさま」の映像もアップいただきました。
#ビートルズ来日 公演前座の思い出を語るいかりや長介さん。「ブルー・スエード・シューズ」を演奏したというのは長さんの記憶違いでしょうね。おそらくその曲の持ちネタもあったんでしょう。※堺正章さんが出演したというのも間違い。《1988年7月放送「新伍のお待ちどおさま」より》#ドリフターズ pic.twitter.com/ElJj11ndHd
— Magical Peter (@magical_peter) July 18, 2020
貴重な映像と証言です。
でも、想像すると、ビートルズ来日公演の前座ステージでの演奏曲をたずねられたいかりやが、記憶が曖昧の中で、ぱっと頭に浮かんだロックンロールのスタンダード曲を口にしたのではないかと思うのですが・・・いかがでしょうか。
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[…] 先日から追いかけている、日刊スポーツが発表した1966年6月30日のビートルズ来日公演でのドリフターズ前座出演シーンの写真の謎。 […]