ビートルズ「Back In The U.S.S.R.」のレコーディングのなぞなぞ
ビートルズ「ホワイト・アルバム」50周年記年盤の11月9日リリースが9月下旬についにアナウンスされました。
その予告編ということなのでしょう。Spotifyに「Back In The U.S.S.R.」の3曲入りアルバムがアップされました。
同じ音源は、YouTubeでも公開されました。
1曲目が今回の新ステレオミックス、2曲目がレコーディング時のTake5音源(バッキングのみ)、そして3曲目がイーシャー・デモ音源(1968年5月にメンバーがサリー州のイーシャーにあったジョージの自宅でレコーディングしたもの)と、時系列はさかのぼって行きます。
とにかくひっくり返ったのが、初耳のTake5音源であります。
1968年8月22日の録音で、この時はリンゴが一時的脱退をしている時期。
ドラムはポールがメインのよう(他に2つのドラムトラックがあるそうです。後述)。
で、で、で。
なんとこれが我々が聴き慣れたレコーディング音源からキーが全音下がったGで演奏されているのです。
翌日23日に、このTake5をベースにオーバー・ダビングを行って行き、これをTake6として完成となって行きます。
この23日の音源は豊富にブートレグで聴くことができるのですが、セッションやオーバーダビングの時点で、すでに我々の耳に慣れたキーがAの演奏に変わっています。
振り返って、3曲目のイーシャー・デモ音源を聴くと、キーはG。
このキーは作曲の時点から引き継いでいたものということがわかります。
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さらに・・・。
どうも話は一筋縄ではいかないようなのです。
改めてTake5音源をよくよく聴くと、頭の演奏前のジョージの声は普通のピッチなのに、ブレイクでほんのり聞こえるポールの声はビッチが低いように思われます。
スネアの音も演奏前と演奏に入ってからはピッチが微妙に違うような気がします。いかがでしょうか。
これを辻褄を合わせようと整理してみると・・・。
デモ段階ではキーGだった曲を、キーAでバッキングを録音し、テープスピードを下げ、全音下げ(キーG)にし、そこに上モノ(ピアノ、ギター)重ねた。これが今回のTake5。
Take5のテープスピードを上げてキーAに戻して、歌とコーラス重ねた。
これが「Back In The U.S.S.R.」のレコーディングの大まかな経緯ということになります。
どうも、はじめのデモ段階ではキーGだった曲を、キーAでバッキングを録音してから、全音下げ(キーG)する意味やメリットが解せないです。
単なる思いつきやひらめきだったのか、それともまったく私の推察はハズレなのか。
どこかに記録や証言が残っていないものでしょうか。
これは50年越しのなぞなぞなんでしょうな。
だとすると、この同曲3バージョン出しのプロモーションは実にうまい。
レコーディング経緯における各テイクの担当楽器も確認しておきましよう。
John C.Winn「That Magic Feeling: The Beatles’ Recorded Legacy, Volume Two, 1966–1970 」(Three Rivers Press/2009年)によります。キーに関しては追記してます。
1.Take.1〜5(キーA)
・ポールのドラム
・ジョンの6弦ベース
・ジョージのギター
2.Take5をキーGにし、オーバー・ダビング
(これが今回リリースのTake5音源)
・ポールのピアノ
・ジョージのドラム
・ジョージのギター
*ジョンの6弦ベースは消去
3.これを1トラックにまとめたものをTake6に(キーG)
4.Take6をキーAにしオーバー・ダビング
・ポールのメインボーカル
・ジョンとジョージのバッキングボーカル
・手拍子
・ポールのベース
・ジョージの6弦ベース
・ジョンのスネア・ドラム
その後追加
・ジェット機の音のSE
マーク・ルイソン「ビートルズ全記録2 1965-1970」(プロデュースセンター出版局/1998年)には、ポールとジョンもギターを入れてるようだとの話もあります(P359)が、John C.Winnの著作の方が最近の検証で、より正確であると捉えるべきでしょうか。
いやぁ、面白い。シビレました。
この、アルバム冒頭を飾る疾走感あふれるロック・チューンは、スタジオでの思いつきかひらめきか、1968年8月22日と23日の間に起こった魔法で生まれたわけでありますね。
[参考]
「ザ・ビートルズ レコーディング・セッション 完全版」(マーク・ルーイスン著・シンコーミュージック刊)
「The Beatles White Album RECORDING SESSIONS CHRONOLOGY」(DAPB033CD) 他
※ビートルズ研究者の野咲良氏のツイートからの気付きと、やまちゃん(@slo)の教示に感謝申し上げます。