大滝詠一が「颱風」に仕掛けた1971年の台風に関するリンクの発見
強くなる雨足と風の音に心をザワザワさせられながら、はっぴいえんど「風街ろまん」を。
大滝さん作詞作曲の「颱風」が聴きたくなったのです。
アルバムには、手書きのレコーディング・クレジットが載っていて、「颱風」がレコーディングされたのは「Sept 12th.」とあります。
「風街ろまん」のリリースが1971年11月ですので、おそらく「颱風」で歌われてる「台風第23号」とは、1971年8月に上陸して豪雨をもたらしたもののことかと。
[参照]気象庁:台風経路図 昭和46年(1971年)
気象庁:災害をもたらした気象事例 昭和46年(1971年)5月~10月
今回の台風が10月中旬にして第21号でありまして。
1971年は8月の時点で23号・・・これって多くないかい? と気象庁発表の1951年以降の統計資料を調べてみれば、この年の台風の発生数はなんと36個。
気象庁発表:台風の発生数 より
ちょうど50年前の1967年の39個を最高に、1994年と並ぶ第2位の発生数でありました。
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どどどどどっどーーー。
どどどどどっどーーー。
そんな中、家中の携帯がけたたましく鳴って地元に避難勧告が発令とか・・・。
しばらく緊張感持って備えましょう。
みなさまもどうぞお気をつけて。
・・・とFacebookに殴り書きをしたところ9000SONICSの神沢さんからコメントをいただきました。
長年疑問に思ってたのよ。
「23号って、そんな沢山台風って発生するか?」って。
そしたら去年23号が発生して「あるんだー」と思った次第。
日本に上陸する台風って18とか19号くらいまでがせいぜいのイメージでした。
確かに。
気象庁の統計資料を当たってみると、日本への接近が15個以下、上陸となれば5個以下がほとんどですので印象としてはそうなります。
発生だけならほぼ毎年20個を超えてるんですな。
布谷文夫バージョンが「台風13号」に改題されたのはてっきり「23号は嘘っぽい」からだと思ってました。
ほーー。
「ナイアガラ音頭」でおなじみ、布谷文夫が「颱風」をカバーしていたとは勉強不足にて知りませんでした。
Youtubeではここで聴けます。(1976年放送分「Go!Go!Niagara」布谷文夫特集)
しかし、どうして改題したんでしょうか。
そこでまず、布谷文夫「台風13号」がリリースされた1973年の台風第13号の経路を確認してみました。
えーー!? 1973年台風第13号は上陸どころか、日本に接近すらしてないのです。
神沢さんはおっしゃいます。
考えられるのが、(布谷バージョンは)オリジナルにはない「台風13号〜」っていうコーラスが付け加えられていること。
大滝はリアレンジのアイデアとして、このコーラスのメロディーが最初に浮かんだのかも。
このメロだと23号じゃ絶対ハマらない。
どうですかね?
「にじゅうさんごう」 「じゅうさんごう」
果たして語呂においてどちらが良いものか私にはわかりませんが、わざわざ「颱風」を「台風13号」と改題した大滝さんの意図がどこにあったのかが妙に引っ掛かりました。
どこかにそのヒントがないか、家にある書籍を当たりました。
まず、「大滝詠一 Talk About Niagara」(レコード・コレクターズ増刊・2011年刊)に「颱風」の歌詞に関して大滝さんが語っている2005年のインタビューを見つけました。
で、<五月雨>では音韻は“あ”にこだわって、俳句を形式的に埋め込んでロックにしようと。“俳句ロックですよ”。
(中略)
それと自然を歌う、というのもひとつの日本のロックなのではないかと僕なりに考えた。で、それが(はっぴいえんどの)<颱風>に繋がった。で、雨が降ってるけれども、傘がない、というストーリー性は俺にはないのよ。とにかく雨降って、台風が来たと。状況描写だけなの。でも、芭蕉は風景や自然を語ることによって、個人の心情をたくしたわけで、そこには個人の想いがある。だけど、それを説明しちゃあ野暮になるので、あえて言わないし。まぁ、意味性を捉えようと思えば面白くの捉えられるんだけどね。(P8-9)
大滝さんが「颱風」の歌詞で、飽くまで状況描写にこだわったなら、改題して歌詞を変えたのはどうも不自然に思われ、ここで語られる前者にある音韻を優先したのだとしたら「にじゅうさんごう」より 「じゅうさんごう」と、語呂の良さを取ったとも取れます。
うーーん。少々混乱します。
次に、「All About Niagara」(白夜書房・2001年版)を。
「Niagara Clonicle:大滝詠一&ナイアガラ活動年譜」を見たところ、1971年7月7日の項に
「『颱風』のヒントにあった台風が来て、その日の内ににデモは完成」
とあります(P643)。
この日の制作を裏付ける大滝さんの発言も「大瀧詠一 Writing & Talking」(白夜書房・2015年・P34)に見つけました。
あれは71年の7月7日に作ったんだよ。その日にホントに台風が来てね(笑)、調べてもらえばわかるけど。”タイフーン”っていう英語の語感も面白いなぁって思ってて、そういう語呂のいい言葉を探してて。それにたまたま永井荷風の小説読んでたし。さらにたまたまトニー・ジョー・ホワイトの「スタッド・スパイダー」を聴いてた(笑)。で、台風の日に外に出て遊んだことを曲にした。
(初出は「ミュージック・ステディ」(ステディ出版)1984年5月〜6月号「大瀧詠一徹底研究」掲載インタビュー)
トニー・ジョー・ホワイトの「スタッド・スパイダー」も貼っておきます。
にやり。
さて。
そこで、1971年7月7日に発生していた台風を確認したところ・・・
な、な、なんと!
台風第13号が午前9時に関西にいるではありませんか!!
つまり・・・。
「颱風」のもともとのモチーフこそが、なんと他でもない、この1971年の第13号だったわけです。
はっぴいえんど「風街ろまん」のレコーディング時には、その時期大きな被害とともに印象に残った・・・と同時にメロへの語呂の良さから「台風第23号」を歌詞に採用し、その2年後の1973年に、布谷文夫バージョンでわざわざあのコーラスの歌詞で、ホントのこの曲のモチーフである「台風第13号」を復活させたと・・・。
大滝さん、深すぎです。
わーーー。
鳥肌が立ちました。