「かくし芸の覚え方」着荷と、1960年代の「かくし芸」観
先日高知県立図書館での所蔵を確認した、アダチ龍光も寄稿している寄席研究会編「かくし芸の覚え方」(三洋社・1960年刊)が、地元の図書館に到着。
事前の連絡にて、
「状態が非常に悪く、一部ページの欠落もあり。高知県立図書館は『貸出も可』としているが、当館としては取り扱い注意にて、館内閲覧のみで複写も本が壊れる可能性があるので遠慮していただきたい。」
との電話。
うーーーん、それはつらい。
「取扱には充分に注意しますので、短い期間だけでも貸出し願えないものでしょうか。」
とお願いし、上司の方とご相談いただき、何とか2週間の期限付きでOKをいただく。
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龍光さん担当ページは、ちゃんと残っていたので一安心。
ページの欠落に加えて、背割れが酷く修理で無理やり背固めしている状態なので、ノドが開かない状態。開こうとするを確実に割れます。これではコピー不可も致し方なし。
内容が内容なだけに、その昔は年末の忘年会に向けてお父さんが借りていく、学校のお楽しみ会に向けてお兄ちゃんお姉ちゃんが借りていくってな具合で、少々乱暴に扱われることもあったであろうことも想像できます。
この本も、まさか発刊から50数年を経て、高知県から埼玉県まで旅をすることになるとは思ってなかったでしょう。
さて。
本書の内容ですが、前書きにて
「ラジオテレビの飛躍は、ひとつの演芸ブームを現出している感があります。演芸への一般の関心が、これほど昴められた世代というものは、嘗てないことでしょう。」
「こうした演芸に親しみなじみ、そうして、余技としてそうした芸を身につけることを試みてみたいと考える人は、相当多いのではないかと思います。」
とあり、取り上げる演芸と担当は下記の通り。
[収録と各著者]
落語篇 三遊亭円馬
声色篇 悠玄亭玉介
浪曲篇 相模太郎
奇術篇 アダチ龍光
民謡篇 小唄市丸
俗曲篇 西川たつ
剣舞篇 雲井龍風
舞踏篇 坂東古登枝
事前に抱いていた「かくし芸」のイメージとは、少し違っていました。予想以上の本格派。
1960年代の忘年会に向けたお父さん、お楽しみ会に向けたお兄ちゃんお姉ちゃんが求めた「かくし芸」とは、ホントにこれだったのでしょうか?
編者は「こうした芸能の世界えの指導や、手ほどきをする機関が、余りにも少ないと思える」として、この本をきっかけに
「それぞれの芸能教室(或は通信的な機関によってでも)の如きを作ってみたい考えもあり」
と熱く語りながら、
「(指導、執筆参加してくれた)諸先生に対して、ご好意を謝するとともに、甚だ計画倒れで目的を完全に果たし得なかったことを深謝いたします。」
と、やや空回り感があったことをいきなり反省し始めてしまいます。何とも微笑ましくも濃い一冊であります。
龍光はP79〜106の「奇術篇」を担当。
目次から項目を拾ってみます。
[奇術篇目次]
・易しく又難しい
-奇術とは合理的なもの
-奇術の世界に愛情を
-人間の心理を掴むこと
-手先の練習
-練習中の危機
-人真似より自分のものを
-怯えずにどんどんと
-失敗に驚いては不可ない
-便利になつたこの頃・奇術を演るための心得
・貨幣の奇術
・煙草の奇術
・ハンケチの奇術
・コップの奇術
・易しい水芸
・水に浮く文字
・白扇と五十円玉
・トランプの奇術
「易しく又難しい」は、龍光の奇術論といいますか、心得的なエッセイといいますかの文章で実に味わい深い。
奇術の各論もパームから始まる本格的なもの。
もう少しじっくり読み込んでみます。
まずは、そんなこんなを「奇術師 アダチ龍光 年表wiki」の「1960年(昭和35年/64歳)」の項に追記しました。