【まとめ】ビートルズ「シェイ・スタジアム」は疑似ライブなの?
なんかもやもやするなと思っていたら、ひとつ宙ぶらりんにしていた宿題がありました。
「ビートルズ『シェイ・スタジアム』は疑似ライブなの?」問題であります。
これまでの経緯はこちらにて。
2016年に出たポールのインタビュー本「告白」(ポール・デュ・ノイヤー著/奥野祐士訳 / DU BOOKS刊)での、シェイ・スタジアム公演に関する発言
「で、イギリスにもどったあと、実を言うと歌を全部入れ直したんだ。マイクはなにも拾えてなかったし、拾えててもひどい出来だったからね。今見直してみると、ぼくらは正直、いい仕事をしたと思う。ちゃんとライブっぽく見えるからだ。ぼくらはウェンブリーにあったスタジオに少なくとも2日、ボーカルやギターや、とにかくやり直す必要のあるものは全部やり直した。」(P97)
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にて、裏取りは出来たわけですが、その詳細はビートルズ研究の第一人者、マーク・ルイソンの「ザ・ビートルズ全記録」(1994年)及び上下巻をまとめた「ザ・ビートルズ ワークス -The Complete BEATLES Chronicle 1957-1970 -」(マーク・ルイソン著/ザ・ビートルズ・クラブ監修,監修,翻訳 / 洋泉社刊 / 2008年)で言及されているということで、このあとすぐに確認を行いました。
映像と音源検証のソースには、イギリスのSVC TELEVISIONのリマスター1991年版映像と、PAアウトラインのライン音源等を収録した「SHEA!」(HIS MASTER CHOICE – HMC030CE DVD/CD)を使用しました(もちろん他にも最善のソースがあるかと思います)。
「ザ・ビートルズ ワークス」でシェイ・スタジアム公演に関して言及されているのは、P254〜256。
テレビ番組での放送用の録音に関して言及しているのは、P275「シェア・スタジアム公演の音声をテレビ番組用に修正録音」(表記は原文ママ)の項。
では、一度シェイ・スタジアム公演から、テレビ放送までを時系列で確認してみます。
1965年8月15日(日) シェイ・スタジアム公演
1966年1月5日 ロンドンのCTSスタジオで修正録音
1966年3月1日 20:00〜20:50 イギリスBBC1で初放送(モノクロ)
「告白」であったポールの発言「ぼくらは(ロンドンの)ウェンブリーにあったスタジオに少なくとも2日(入り)」を裏付ける1966年1月5日以外のレコーディング記録は確認出来ませんた。
修正レコーディングを行った理由は至極当然、納得のもの。
当時、観客動員数(55,600人)と収益でロック・コンサートの世界記録となった歴史的スタジアム公演の記録をゴールデンタイムのテレビで放送するには、会場の巨大さ、ファンの絶叫、録音機材の貧弱さ、そしてビートルズの演奏の粗・・・と音声面で難があったから。
そこで、録音にこの当時ロンドンに初めて出来た映像音声ダビングスタジオであるCTS(シネ・テレ・サウンド)が選ばれたということだそうだ。
なるほど、画像のようにスクリーンに映像を流し、それに合わせたり、雰囲気に合うような演奏を行うわけですな。
では、次にセットリストに沿って、どんな修正レコーディングが行われたを整理してみます。
1.Twist & Shout
-レコーディング時間が足りず、1965年8月30日のハリウッド・ボウル公演の音源を使いサウンドを厚くした。2.She’s A Woman
-映像自体カット(撮影はされている?)で、レコーディング無し。3.I Feel Fine
-映像に合わせてメンバー全員でまったく新しく録音。
-1965年8月30日のハリウッド・ボウル公演の歓声をかぶせる。4.Dizzy Miss Lizzy
-ポール、ベースをオーバーダビング。5.Ticket To Ride
-映像に合わせてメンバー全員でまったく新しく録音された模様だが、最終的には多少のオーバダビングで、オリジナルのライブ音源が採用。6.Everybody’s Trying To Be My Baby
-映像自体カット(撮影はされている?)で、レコーディング無し。7.Can’t Buy Me Love
-ポール、ベースをオーバーダビング。8.Baby’s In Black
-ポール、ベースをオーバーダビング。9.Act Naturally
-この日までに、制作スタッフが、映像にレコード音源をかぶせるという処理を行っており、レコーディング無し。10.A Hard Day’s Night
-(修正記録無し)11.Help!
-映像に合わせてメンバー全員でまったく新しく録音。
-1965年8月30日のハリウッド・ボウル公演の歓声をかぶせる。12.I’m Down
-ジョン、オルガンをオーバーダビング。
まず気になるのは「She’s A Woman」と「Everybody’s Trying To Be My Baby」の映像の所在。
曲順からみても「She’s A Woman」は2曲目であり、「Everybody’s Trying To Be My Baby」と連続しているわけではないし、ましてライブは12台のカメラで撮影されたとされているだけに、この2曲が「撮影されていない」わけはないでしょう。
早い段階で、この2曲がテレビ放送用にむけた編集でカットされたのでしょう。
(編集前のマスターって残ってないのかなぁ・・。しかしホントこの2曲の映像って見たことがない!)
でも「Act Naturally」の映像にレコード音源をかぶせるという不自然な音声処理をした映像を採用してまでこの2曲をカットした判断とは一体何故だったのでしょうか?
制作側の意図としてリンゴが歌う唯一の曲だけに外せなかったということ?
「She’s A Woman」は、ライブ音源を聴くと、冒頭いきなりポールが歌詞を間違えてちょっとズっこけているのですが、これもオーバーダビングすれば修正出来たはず。
まして「Everybody’s Trying To Be My Baby」に至っては、演奏に大きな問題はないように思います。リンゴが歌う唯一の曲「Act Naturally」を採用するなら、ジョージの歌うこの曲はどうなんだって感じですが・・・。
当然1時間番組用にCM抜きで48分ほどの作品に編集する尺の制限もあるわけですが、この辺りが不可解というか実に面白い。
・・・あ、単に、当時の最新アルバム「HELP!」収録曲だったから優先されたのかな?
さらに「Act Naturally」にこだわってみると、1966年1月5日の修正録音レコーディングの時点で、既にこの曲だけ、音声処理がされていたというところが気になります。
ライブ音源を聴くと、リンゴの音程が少々あやしいのと、ポールのマイクがオフになっている(または録音できていない)ことが確認できます。
なので、何らかの編集を加えようとする判断が制作側で事前にあったのではと想定されます。
で、ひょっとして全曲・・・とは言わないまでも、音源に問題ありの曲複数でこの手法を用いようとした可能性はないでしょうか?
歴史的ライブイベントの記録番組にさすがにそれはまずいだろうと修正レコーディングがセッティングされたのではないでしょうか?
いやぁ。面白い。
いずれにしましても、修正レコーディングしたからシェイ・スタジアム公演のライブ記録の評価がどうこうなるということは微塵も思っておりませんことを重ね重ね申し上げます。
昨年公開されたドキュメンタリー映画「EIGHT DAYS A WEEK」の本編終了後にビートルズのライブ絶頂期の疑似体験をさせてくれた「シェイ・スタジアム公演映像2016年リストア版」をもう一度爆音で観たい気持ちでいっぱいです。