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「片づけずにはいられない」
収納強迫症患者の告白/棚 一郎
散らかったから片づける。そんなもの当たり前である。自分の部屋が散らかっているのを気分良く思う人などいるはずがない。だから片づける。私もそうだ。

人は私を収納強迫症と呼ぶ。・・・何故だ。私は当たり前のことをしているだけなのに。一体何だって云うのだ。
部屋が散らかった。片づけなくては。そのためには収納する棚が必要だ。だがあいにく私には棚を買う金が無い。だから棚を作る。・・・それだけなのに。

この部屋に越してきたのは今から約3年前のことだ。6畳一間からこの約8畳の部屋への進化は私を大きな喜びに包んだ。小学校以来使っていた学習机も処分した。さぁ広々と部屋を使うぞ!!・・・喜びもつかの間、私は大きな誤りを犯していたことに気付いた。・・・この部屋には押入れを始めとする収納がいっさい無かったのである。

部屋が狭くなるためベッドを嫌う私は、布団を常に他人の目に触れる場所に置かなくてはならないではないか。小学校時代のアルバムも本棚に並べろというのか。全く冗談じゃない。

・・・この日以来、私の「片づけつつ隠す日々」が始まった。

前置きが長くなった。
大体、収納棚というものは物が増えたから購入するものであって、云ってみれば部屋にオプションとして付け加えて行くものである。だから限られた部屋の隙間にぴったりとフィットするものでなくてはならない。
だが、部屋は引っ越しの時点でレイアウト的にある程度の完成形を見てしまっている。市販の収納棚ではなかなかまかなえない場合も多い。私はまさにこれだった。
最近では「隙間収納棚」みたいなものが随分と出回っているようであるが、価格がかえって割高で、買うのがバカらしく思えてしまう。

・・・だから私は棚を作る。出来るだけ安く、出来るだけ簡単に。機能など最低限でよいのだ。電動で棚が動く必要など無い。物が乗りさえすればよいのだ。

材料はゴミだ。
2月、3月の引っ越しシーズンとなると私の部屋の棚となるべき材料が街に溢れかえる。食器棚や本棚、靴箱やらの木製の収納家具がご丁寧にもきちんと解体されて捨ててある。これらの木片は私の手で隙間収納家具として生まれ変わるべく実に良い大きさにばらされている。もともとは他人様の部屋の中で天井まで届かんばかりの大きな顔をしていただろうに・・・・。

私はその中から1メートル四方以内のものを持ち帰る。
さぁ、君たちを隙間収納家具として生き返らせてあげよう。

左図は私が最も気に入っているフォームである。たった3枚の板を組み合わせ、補強をするだけ。大工経験の無いあなたでも1時間もあれば作ることが出来るだろう。ただここで注意が1つ必要だ。木片を合わせる時、釘ではなく木ネジを使うことをお薦めする。金槌で釘を打つ音は意外に大きい。アパートやマンション暮らしの方は近隣住民のためにも木ネジを使うべきである。

そんなわけで、このフォームは過去3つ作った。第1号は私の日々作業を行うパソコン脇に鎮座し、辞書やらマニュアルなどちょっとした調べものをする資料棚として機能している。上段はタイプする際の肘掛けとしても重宝している。一見、室町時代の茶器棚をイメージさせ、私の心を和ませてくれさえする。

第2号はビデオラック。ちょうどステレオのスピーカー脇の隙間にフィット、2列に重ねて収納出来、奥にあまり他人の目に触れられたくないタイトルも収納出来る。まさに「片づけつつ隠す」を体現、の作品である。

第3作目は先日作ったばかりであるが、私としては快心の一作である。 右図を見ていただこう。これももともとは靴箱として捨ててあったものを私が本棚として新たな生命を吹き込んであげたものである。これはこれで気に入ってはいたのだが、素材がプラスチックでどうも安っぽさが拭えず、高級感溢れる私の部屋においては、多少違和感を感じずにはいられなかった。私は常々こいつを何とかしたいと考えていた。いっそのこと捨ててしまおうと考えたこともあった。

だが、私はこいつを捨てなかった。得意のフォームをひとつ作成。ポンとこいつの上に乗せてみた。

いかがであろう。まるで高さ約1メートルの木製の本棚のごとく、とてつもない高級感が醸し出されたことがおわかりになるであろうか。隣の本棚との相性もばっちり、起死回生とはまさにこのことである。

市販されている組み立て棚は部品の規格が統一されているのか、これら3号ともノコギリをほとんど使用することなく、同じ大きさの棚を作成することが出来た。もともとの木片がそれぞれ食器棚、本棚など用途が異なっていたり、拾った場所が異なっているにも関わらずである。

第4号は一体私にどんな夢を見せてくれるのか、新たな収納の時を楽しみにしている。

・・・一見ただのCDラック。実に良い棚だ。高さといい、適当な幅といい、ある種棚の理想型と云って良い。

・・・実は、これも私が製作したものである。材料はタンスか小物入れかの引き出し。
これを縦に重ね、背中に厚手の板を貼り補強を加えただけである。いかがなものか。ちょうどCD一枚の幅のおかげで、棚の後ろを収納スペースとして活用することが出来る。

一般にCDラックは収納枚数の少ない割に価格が割高で、わざわざ購入するのがバカらしかった。私もそれまでは1000円前後で市販されているカラーボックスを使っていたが奥行きがあり過ぎ、2枚重ねて収納せざるを得なかった。だがこれでは必要なCDを取り出すのに骨が折れる。これを何とかしたかった。そこでひらめいたのがこの棚。これまた快心の一作であった。

カラーボックスが話題に出たところでこいつにも一言触れなくてはなるまい。カラーボックス・・・なかなかあなどれない奴である。近所の雑貨屋で1000円ほどで購入でき、なかなかの収納力。ピンクや黄色など選ぶ色さえ誤らなければ、見た目も悪くない。収納マニア御用達アイテムと云って良い。

私はこれを縦に2列に並べ、その上に横に倒してもう一段乗せ、本棚として活用している。横に倒した段は画集等高さのある書物を収納するのに役立つ。実際なかなかこの高さの本を収納できる棚は少ない。

またこの棚にはもう一つ大きな役割があった。
私の部屋に収納スペースが一切無いということは前述した。ベッドを嫌う私には布団をしまう場所すら無かったのである。

仕方なく私は、日々寝床から起きると畳んだ布団を部屋の角に重ねていた。その上に布をかぶせたりしたが、部屋の角にあるその柔らかそうな膨らみには常に違和感があった。

そこで布団を縦に置いたり横に置いたりして向きを変えたりもした。しかし本来なら押入に隠されてあるべきものがそこにあるという事実を結局私は許すことが出来なかったのである。

また、ある日雑誌の記事でこんなものを目にした。

女性が一人暮らしの男性の部屋を訪れる時、まず第一にベッドや布団が目に入ると警戒心をおぼえる。

・・・そうか。いかん、何とかせねば。部屋に女性が訪れる予定など全く無かったにも関わらず私はあせった。

ちょうどその頃、収納し切れない本が床にあふれだしており、新たな本棚の必要が迫られてもいた。しかし金はわずかしかない。・・・・答えはひとつ、カラーボックス。

・・・ちょっと待て。これを布団の前に置いたら・・・・・。そうだ!!
私は近所の雑貨屋へ走った。迷わずカラーボックスを3個購入。色はお気に入りの黒を指定。急いで部屋へ帰り、即組み立て。布団の重なったスペースの前に置く。縦に2列、横にして一段・・・簡易押入の完成である。散らかった本もいっぺんに片づき一石二鳥!!積年の不満がついに解消されたのである。

それが上の写真である。私はこのときほど己の収納の勘の鋭さに驚いたことはない。思わず感動の涙が頬を伝った。


今回、私の作品の本の一部しか皆さんにお見せできないのが非常に残念であるが、もし私の収納にかける思いが少しでも伝わったなら幸いである。

人は日々生活する。物は日々部屋にやってくる。部屋は散らかりゆく。散らかったら片づける。見せたくないものは隠す。隠し片づけ、片づけ隠す。・・・ただそれだけだ。
さあ今日も日が明けた。次は何を片づけようか。 (97年記)
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