The Beach Boys/Best Of The Beach Boys
(capitol DT2545)



【Beach Boysは夏の消費音楽】
浜尾 六郎


初めてブライアンの声に触れたのは確か今から12,3年前になる。
当時のFMラジオは今のようにDJがしゃべりまくるようなモノではなく、しゃべりは極力少なく、で、曲を始めから最後まで掛けるという番組が主流だった。レコードを買うお金もなく、貸レコード店を利用するにも 何を借りるべきか慎重に選ぶ、そんな感じだったからFMというものはとても重要な情報源であった。今もあるのかもしれないが、オンエアされる曲目が掲載された番組表の載った雑誌を買い、聴きたい曲にマークを付け、カセットテープに録音したもの。エアチェッカー・・・そんな言葉もあった。最新のヒットチャートの楽曲や60〜70年代の大物についてはFMから学んだところが大きい。

かつてNHK-FMで夕方4時から2時間、毎日特定のアーティストの特集組み、2〜30曲近く流す番組があった(今もあるかもしれないが)。当時私は中学1年生、夏休みの退屈で穏やかな日々を今にして思えば無駄に過ごしていた。

その日の特集はビーチボーイズ。安易と言えば本当に安易、だがその日は初期のナンバーから30曲近くもオンエアされる。雑誌で何度も目にするバンドをまとめて聴くことが出来るもってこいの番組だ。私は120分テープで番組を全て録音し、DJの曲紹介部分をカットし、2本の60分テープに編集した。そして私は夏休みの間、何度も何度もそのカセットを聴いた。

そうである。当時は何ヶ月かに一遍レコードが買えればいい方で、貸レコードにしてもレンタル料は結構高かった。一度入手した音源は多少気に入らなくても何度でも聴いたものである。そして次第に好きになっていった。
現在も当時ダビングしたカセットや購入したレコードが残っているが、歌詞から曲順から隅々まで今だに憶えているものである。

そんな風にして私は初期ビーチボーイズに夢中になっていった。
ちょうどその時、音楽の授業の宿題で「夏休みに聴いた音楽」という題で作文を書けというものがあり、他の者がクラシックの名曲でもっともらしいことを書いているのに、私は3rd「Surfer Girl」収録の「Hawaii」(邦題「夢のハワイ」)を取り上げ、「ビーチボーイズねぇ・・・」と教師に苦笑いされたものであった。
それにしても何でこの曲だったのか不思議であるが、「ハワイへの憧れが伝わってくる」とか何か書いた記憶がある。「あこがれのハワイ航路」かっての。
今となっては自分で自分に苦笑いである。

そんなわけで「ビーチボーイズのレコードが欲しい」その思いは次第に強くなっていった。
当時レコードは2,800円もした。小遣いが3,000円だった私には大きな出費である。それを少しでも安く抑えるには輸入レコードで購入するのが良い、歌詞カードは付いていないが、それなら2,000円ほどで買えるはずだ・・・当時父親の仕事の都合で埼玉県の春日部市近くに住んでいた私は、東武野田線に乗り千葉県柏市にある輸入レコード店へと出掛けた。

そうだったよなぁ。当時って輸入レコード店って少なかったよなぁ。今みたいに雑誌感覚でCDが買えるようになるとは夢にも思わんかった。

そんなわけで30分かけて電車に乗り、目的の店に入ると真っ先に「B」のコーナーへ。
大好きなBeatlesは今回は見ないようにして隣のBeachBoysに集中・・・色々あるんだなぁ。
「PetSounds」・・・これって名盤らしいけど発売当時は売れなかったらしいし、多分マニア向けのアルバムなんだろうなぁ。知ってる曲も全然無いし・・・おっベスト盤だ。
この曲知ってる、あ、これもこれも。うんうん、コレにしよう。

そうして購入したのが最初期から「Today」(65年)までのベスト「Best Of The Beach Boys」であった。そう、「Pet Sounds」は駄作だと判断したキャピトルが急遽発売した因縁のアルバムである。当時、レコード会社にとってもファンにとってもBB5は単なるサーフィンバンドに過ぎなかったわけで、そのイメージとあまりにもかけ離れた「Pet Sounds」に欲求不満だった大衆は案の定、このベスト盤に飛びついた(でも遠く離れた英国では高く評価され、ポール・マッカートニーに「今まで聴いた中で最高の作品」とまで云わしめたという事実も忘れてはいけません)。そうしてブライアンは失意のどん底へ、メンバーからも総スカン、そして「Smile」へ・・・。

事実、当時私にとってもBB5は夏休みの愉しいBGMぐらいのモノでしかなかったわけで、あれだけ夢中になったというのに夏の終わりとともにそんな熱も次第に冷めていった。
時々雑誌等で「英国のビートルズ、米国のビーチボーイズ」などという論調の記事を見かけても「何云ってんだ。ビーチボーイズなんて所詮、夏の消費音楽じゃねぇか。比べるんじゃねぇ」くらい思っていた。
「軽くかじった程度で何云ってんだ」と今では自分で自分に苦笑いである。

でもねぇ、何だか健全な音楽ファンだったんだなぁと遠くを見てみたりもする。
そんなわけで思い出のアルバム。輸入盤のレコードって独特の匂いがして、それがまた好きだった。
改めて引っぱり出して嗅いでみたりする。  (98.7.8.)


(C)TONSEI RECORDS